日本画の技法~洗いと膠抜き~

日本画の絵の具の洗いと膠抜き

日本画って修正できないの?

日本画って一度描いたらもう修正できない
思ってませんか?

そんなことはありません。膠ならお湯で洗えば、
すぐに落ちます。

昔、膠で描いていた時は、失敗したらお風呂場に
行ってシャワー
でお湯を出して、洗っていました。

膠はお湯に溶けるので、膠で溶いた岩絵の具は
お湯をかけると落ちます。また、少し名残りが
出ます
が、それがまたいい感じなのです。

アートグルーを使った場合は、AG溶解液という
液を使います。アートグルーもお湯で多少落ちますが、
AG溶解液を使うとざっくり落ちます。

AG溶解液はとても便利で、お皿に残った絵の具
膠抜きもできます。

お皿に残った、アートグルーで溶いた岩絵の具は、
AG溶解液で膠抜きします。

洗いと膠抜き

「膠抜き」とは岩絵の具を膠などの接着剤を
取り去ることを意味します。

膠なら、お皿にお湯を入れてかき回し一度お湯
を捨てます。

さらに乾く前にもう一度お湯を入れてかき回します。
再度お湯を捨てるとかなり膠は落ちています。

こうすると岩絵の具は最初のサラサラの状態
に戻るので、また使うときに膠を入れます。

そうしたら、また普通に使えます。岩絵の具は
高いのでこうして大切に使います。

動画を添付しておきます。

岩絵の具の後片付けの仕方

アートグルーの場合も同様です。AG溶解液を
入れて2度ほど洗います。

アートグルーの場合は3回洗ってもいいかも
しれません。そうすると岩絵の具は元どおり
になります。

後日使いたい時にまたアートグルーを入れると
普通に使えます。

岩絵の具をお湯で落とすことを「洗い」と言います。

これは一つの日本画の技法で、とてもいい感じに
岩絵の具が残るので、洗いを多用する作家もいます。

筆で岩絵の具を乗せていくのがプラスの作業としたら、
洗いはマイナスの作業です。

作品を作るときはこの両方の作業をすると、
絵が深くなります。一度試してみてください。

小さな絵でしたら、比較的簡単に洗えます。
台所でもいいかもしれませんね。

大きな作品になるとお風呂場か、もしくは、
絵の下にビニールを引いてお湯で絵を洗います。

きれいに落ちますが、もし畳の部屋でやるとしたら、
かなり頑丈に水分のしみ込みを防がなくてはいけません。

昔、賃貸のアパートに住んでいる時、畳の部屋
がアトリエでした。

その場合、畳の上に青いビニールシートをひき、
その上からウッドカーペット
を引いていました。

賃貸だと、汚してはいけないので、そのくらい
頑丈にしていました。

今は、フローリングなので、安価なカーペット
を敷いて使用しています。それにあまり大きな
作品を描かなくなりました。

膠だとお湯で済みますが、アートグルーだと
AG溶解液を買わなくてはいけないので、お金
がかかります。

しかもジャバジャバ使うので、金銭的に厳しいです。
私は、海外に出しているのでアートグルーを
使用していますが(湿度・温度が日本と違うので)、
洗いの時だけは、膠にしたいと思います。

洗いの効力

私が大学院の修了の時、4か月で300号を
描いたこと
があります。

もう心は焦りでいっぱいで、全然仕上がらなくって
パニック状態でした。小下図なども無視して
、筆でガンガン描くほど夢中でした。

「筆で絵の具を置く音がする」と言われ、
区切られたアトリエの隣の院生はほかの場所に
移ったぐらいでした。

殺気立っていたのでしょう。もう焦りと興奮
めちゃくちゃでした。

4日徹夜して描いていて、心も体もボロボロに
なっていました。

そんな時、ふと「お風呂に入ろう」と思ったのです。
そして、急いで家に帰り、お風呂に入りました。

心も体もすっきりして、再びアトリエに。
そして今度は絵を洗いました。

そうすると、今まで苦労していた筆跡が浮き上がってきて、
絵が完成したのです。

心も体も絵もすべて洗い流した瞬間でした。
そうして、絵は完成したのです。

 

私の恩師も学生時代に「洗い」に救われたと
おっしゃっていました。

模写をされていたようなのですが、うまくいかず、
とうとう絵を洗ったのです。

そうするとやはり、今までの苦労が一気に表れてきて、
物凄い模写が出来上がったそうです。

このように、「洗い」には不思議な力があります。
ちょっともったいないような気もしますが、
洗うことによって、精神も美しくなり、絵も美しくなるのです。

もったいないと思わずに一度小さな絵で試して
みてください。

その時は、結構描きこんでからのほうがいいです。
苦労の筆跡が出てきますので。

洗いには「偶然性」もあります。偶然お湯の温度が
高かったところや、いっぱい洗えたところとそうでない
ところがあります。

それもまた、楽しいものです。特に日本画はコントロールが
難しい画材
なので、偶然性を生かすのもいいと思います。

この偶然性からものを創造していくのも面白いです。
特に最近はこの偶然性を重視している日本画も
多いように思います。

例えば、麻紙の生紙に絵の具をしみ込ませていくとか、
お皿に入った絵の具をたたきつける、なども
よく学生がやっていました。

最近は日本画といえば、「美人画」が流行です。
これはあまり偶然性を考えないで、コツコツと
綺麗に描いた日本画です。

時代とともに流行りすたりはあると思いますが、
流行を取り入れつつ、自分のスタイルを確立
していきたいものですね。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

 

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