透けて見える基底材~絹~

透けて見える基底材~絹~

日本画には独自の基底材があります。
それは「絹」です。

「絹本(けんぽん)」「絵絹(えぎぬ)」と言います。

絹の歴史は紀元前にもさかのぼります。
古代中国で開発されたものです。

昔はほとんどの絵師がに描いていた為、
紙より絹のほうが歴史が古いのです。

奈良時代には麻布に絵が描かれるようになり、
平安時代からはが主流になりました。

室町時代や江戸時代には和紙に描かれる事が
多くなってきました。

近代以降は麻から作った麻紙が主流です。

古来はが高価だったため、に描いていました。
しかし紙の普及により、絹は現在ではちょっと
特別な基底材となっています。

絵絹は、平織りで薄手の絹織物なのですが、
普通の絹織物よりも手触りがゴワゴワしています。

それは、繭から引き出した糸を柔らかくせず、
そのまま織り上げているので、イメージした
「絹織物」とは違います。

私は絹に描くのは好きです。紙は絵の具を乗せて
いきますが、絹は糸の間に絵の具を埋め込むという
作業です。

描く作業は紙と同じです。
気負わず挑戦してみましょう。

絹には、表と裏があります。
絹には表面の両端に針の後があります。

この針孔が盛り上がっているのが表で、
へこんでいるのが裏です。

厚みは一丁樋(いっちょうひ)は普通品、
二丁樋(にちょうひ)は厚手、三丁樋は高級品

なっております。

絹の幅は一尺(30cm)~六尺(200cm)まであり、
長さは六丈五尺~七丈五尺を一疋(いっひき)
としています。

これは大体23mになります。
難しいので、寸法の表を添付します。

http://zokeifile.musabi.ac.jp/%e7%b5%b5%e7%b5%b9%e3%83%bb%e7%b5%b9%e6%9e%a0%e3%82%b5%e3%82%a4%e3%82%ba/

これだけ大きな絹があれば、ほとんどの作品は
大丈夫でしょう。

絹本だと裏に箔を張った「裏箔」なども出来、
とてもきれいな画面を作る事が出来るでしょう。

絹はパネルに貼りません。木枠に張り込みます。
また、絹は多少変色します。

秘伝として、ドーサを塗った後、胡粉を2.3回塗る事で
この変色を防ぐことが出来ます。

あと、胡粉を塗った後、もう一度ドーサ
引いておくとより安全です。

胡粉だけの下地だと、着色をした後で
剥落(はくらく)の可能性があります。

また先ほどの裏箔もそうですが、
絹は透けて見えるので「裏彩色(うらさいしき)」
できます。

「裏彩色」をしておくと表からも裏からも
にかわで止めるので、より堅牢な画面が出来ます。

例えば、裏から青を塗って表から白を塗ると
青白い色が出ます。

このように画面上で色を混ぜるのが困難な絹
ですので、色を重ねる時はこうします。

絹の木枠への貼り方ですが、木枠は販売も
していますが、小割(こわり・端材の木)の木を
買ってきて自作もできます。

小割を四角に組み、それより大きめの絹を用意します。
そして、木枠の上に糊を付けます。

まずは全部につけてください。
これを捨て糊(すてのり)と言います。

糊を塗った木枠の上に絹を置きます。
置いた絹の上から糊をさらに塗り込みます。

そして塗った後、画鋲で上の辺を止めます。
同じように左右も糊で塗って張り込んでいきます。
四隅を画鋲で止めます。

糊が乾いたら、糊のところに防水テープを張ります。
その後で、お湯で絹を引き締めます。
刷毛でお湯を絹に塗っていきます。

絹は縮むので貼る時にたるみが出ても、
湯引きの後はピンと張ります

途中で絹が緩んでも湯引きの後でピンとはりますので、
ご安心ください。

絹が乾いたら、ドーサを引きます。
2.3回引くといいでしょう。

そして描いていきます。また詳しくご説明しますが、
下図を転写して骨描きをします。

骨描きが乾いたら、胡粉を引きます。
そうすると、先ほど説明した「絹の変色」を防ぐことが出来ます。

詳しくまとめた記事がありましたので、添付します。
http://plus.harenet.ne.jp/~tomoki/newcon/news/2008/110601/index.html

絹は紙と違った注意が必要ですが、
絹に描くというのはとても楽しい作業です。

紙とは違った特性があります。透けた感じを
生かすなら裏打ちなどは必要ないですが、
基本的には絹本は裏打ちをします。

これは、自分では難しいので表装屋さんに
頼むといいでしょう。
掛け軸などにしても素敵です。

絹に描く時ですが、絵の具は水干岩絵の具の
細かい粒子のものを選びましょう。

12番から白ぐらいです。あまり荒い絵の具を
使うとうまく描けません。

絹の独特の透明感も損なわれる可能性が
あります。

あと、あまり岩絵の具を重ねすぎると
剥落の危険性もあります。

私も昔、絹本の仕事を受けたことがあります。
その時は全て水干を使っていました。

粒子の細かい絵の具と絹は相性がいいのです。

あと、最後に鉄線描が見えるなら、
金泥などで表から鉄線描をなぞるといいでしょう。
それも素敵です。

盛り上がったところは胡粉を何度も重ねましょう。
あるいは盛り上げ胡粉なども少量なら使えます。

よく画集や美術館で「絹本着色」とか「紙本着色」
「絹本墨画」「紙本墨画」と書かれていますが、
これは何と読むのでしょうか?

答えは、「けんぽんちゃくしょく」「しほんちゃくしょく」
「けんぽんぼくが」「しほんぼくが」と読みます。

「絹本着色」はその名の通り、絹本を支持体にして
色を付けたという事です。紙本も同じですね。

ちょっと絹本が身近に感じられたかと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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